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連載

現代史の言霊  第49話

六月の開廷 -露ユコス脱税事件(二〇〇四年)-
伊熊 幹雄

2022年6月号

《二年、四年は覚悟していたが、十年とは》
ミハイル・ホドルコフスキー(石油大手「ユコス」社元会長)

 最初にロシア旅行した時には、「ソ連」の最後の頃だった。ツアー旅行で、良いところだけを見たはずだが、ホテルの部屋のゴキブリと夜の暗さが印象に残った。
 二〇〇〇年に特派員として赴任した時には、首都中心街がどぎついネオンに覆われていた。一九九一年にソ連が崩壊した後、欲望とカネ、犯罪が飛び交う九〇年代を経て、市民たちは自らの国を「西部開拓時代」と形容していた。
 二〇〇〇年に大統領に就任したばかりのウラジーミル・プーチンは、今より痩せていた。大酒のみのボリス・エリツィンの後で、プーチンは謙虚で質素、酒は控えめ、というイメージを発信していた。
 この頃、最も注目されていたのが、本稿の主人公、ミハイル・ホドルコフスキーである。

資源企業が二束三文で売られた

 一九六三年生まれで、五二年生まれのプーチンより一回り若い。二十代前・・・

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