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WORLD

ASEANで加速する「独裁回帰」

中露陣営への危うい傾斜

2022年7月号

 東南アジア諸国連合(ASEAN)で政治の歴史的逆走が加速している。昨年二月に民主政権をクーデターで倒したミャンマー軍政、息子への非民主的な政権委譲を目指すカンボジアのフン・セン首相に続き、五月のフィリピン大統領選挙では一九八六年の市民革命で打倒された独裁者マルコスの長男が当選した。経済発展とともに民主化が進む「ASEANモデル」は崩れ去り、九七年のアジア通貨危機以前の開発独裁が各国で復活している。背景には、民主化より低賃金労働力の確保と消費拡大を望む外資、ASEANへの影響力浸透を図る中国の存在がある。
 八三年八月二十一日はフィリピン国民の記憶から消え去ることはないと世界は信じてきた。この日、マルコス大統領の政敵で、米国に滞在していたベニグノ・アキノ上院議員が帰国し、マニラ空港のタラップを降りたところで衆人環視のなか、マルコス大統領の刺客によって暗殺されたからだ。「民主主義の抹殺」の瞬間はフィリピン国民の記憶に刻まれ、二年半後、大統領公邸のマラカニアン宮殿をデモ隊が取り囲み、マルコス政権を平和裏に倒し、民主化を実現した。
 その後のフィリピン政治が安定していたわ・・・