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政治

安倍銃撃に泣いた岸田の「統治力」

《政界スキャン》

2022年8月号

 岸田文雄首相は泣いていた。充血した目に涙を浮かべ、記者団と向き合っている間中、頭は小刻みに震えていた。七月八日午後、参院選の遊説先から首相官邸へ戻った岸田氏は記者会見の前、銃撃された安倍晋三元首相はほぼ即死に近く蘇生は絶望的と伝えられていたに違いない。初当選同期の悲劇にショックを受けたのは分かる。だとしても銃撃の一報からすでに三時間。感情を整え、一国の指導者として危機管理と今後の政局に考えを巡らすだけの時間は十分にあった。にもかかわらず生中継するテレビカメラの前で涙をこらえきれない。情けない。
 安倍氏に抜かれるまで長く戦後の首相在任記録一位だった佐藤栄作は、首相就任の前後一年ほどの短い間に、大野伴睦、河野一郎、池田勇人といった政敵たちが相次いで病没し、各派閥が分裂・弱体化した運を味方に引きつけて「佐藤一強」時代を築いた。日記や周辺の証言によると、ライバルたちの死に際し、佐藤は決して情に流されず、終始冷徹である。
 例えば、河野一郎は内閣改造で佐藤から不本意にも閣外へ放り出された失意の一カ月後、急な腹痛に襲われ大動脈瘤破裂で急死した。最期の言葉は「こんなことで死ん・・・