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連載

新大学評判記 第32話

東京大学薬学部 日本医薬界「衰退」の元凶

2022年8月号

 画家・作家・映画監督などマルチタレントとして活躍中の大宮エリー氏は東京大学薬学部の卒業生である。異色中の異色の存在と言っていい。なぜなら、この学部の実態は大宮氏のような人材とは対極にあるからだ。「政官産学の談合」ともいうべき、既存の体制にしがみつく体質である。わが国の医薬品業界で今も盤石の地位を保ってはいるが、グローバル化が急激に進むなか、世界に立ち向かえない。東大医学部へのコンプレックスも壁になっている。
 東大大学院薬学系研究科・薬学部(東大薬)は一八七三年(明治六年)に前身組織が設置され、現在に至る。研究者の育成を目指す薬学科卒業生の大部分は大学院へと進学する。二〇一九年度の場合、博士課程修了者五十二人中、二十一人が製薬企業、十五人が教育・官公庁・研究機関に就職している。
 約四割が就職する製薬企業で現在、最も活躍しているOBは、国産コロナワクチン、治療薬の開発を主導している手代木功・塩野義製薬社長だろう。一九八二年に薬学部を卒業し、塩野義に就職。二〇〇八年から現職だ。一一~一四年まで日本製薬工業協会(製薬協)会長、一八〜二一年まで日本製薬団体連合会(日薬連・・・