三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

現代史の言霊  第53話

九月の改名 -レニングラードの市名変更(一九九一年)-
伊熊 幹雄

2022年9月号

《俺は子供の頃、ワルだった》
ウラジーミル・プーチン
(ロシア大統領)

 ロシア第二の都市、サンクトペテルブルクは首都モスクワに勝るとも劣らない、カラフルな歴史に包まれている。この都市の住民や出身者は、故郷を「ピーチェル(ペテル=ピーターの愛称)」と呼んで、強い誇りを持ってきた。
 サンクトペテルブルクは、西欧と隣接した大都会ということが強調される。野暮ったいモスクワとはわけが違う、というのだ。本稿は、こうした紹介に騙されてはいけない、と釘を刺すのが狙いだ。
 筆者が仕事で最初に訪ねたのは、二〇〇〇年の秋のことだ。地元出身のロシア人記者に案内兼通訳を頼み、「ピョートル大帝の都の今を描く」という趣旨で乗り込んだ。
 ソ連が崩壊して、十五の共和国がそれぞれ独立から九年を経ていた。旧ソ連時代の独裁構造が名前と支配者を変えて生き残った国々が大半だが、ロシアの都市部は市場経済熱に浮かれていた。
 初日に紹介された実業家男性は、取材兼夕食会に愛人を連れてきた。最初こそ、自分の事業(金・・・