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連載

日本の科学アラカルト 146

材料科学を医療分野に応用 新たな「手術支援技術」の開発

2022年10月号

インドネシアで発掘された約三万年前のヒトの骨の化石を分析したところ、足の切断手術を受けた形跡があることがわかった―。九月にこんなニュースが報じられた。これまで人類最古の外科手術とみられてきたのは約七千年前の人骨にあった形跡だったため、一気に記録を更新した。
 外科手術が人類にもたらした恩恵はとてつもなく大きい。日本人もこの医療技術の歴史に名を連ねている。全身麻酔を使った手術は、十九世紀初頭に日本の医師が行った乳癌切除が最古の記録となっている。
 近年は、手術支援ロボットを使ったオペも増え始めている。人の手では難しいレベルの細かいメス捌きで体の負担を軽減できるだけでなく、遠隔地の手術サポートをすることも可能だ。手術を支援する技術はロボット工学だけではない。材料工学の分野から手術をサポートしようという研究に取り組む科学者たちがいる。
 今年三月、東京大学の研究グループは新たな止血技術を開発したと発表した。
 手術中はメスによる切開や切除が行われる。当然、出血を伴うため、これを制御することが重要だ。
 軽い出血であれば放置しておけば自然と止ま・・・