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連載

本に遇う 第274話

人が人を裁く罪と罰
河谷 史夫

2022年10月号

 あってはならないことの最たるものは冤罪だ。誤判で無実の人間が死刑にされてはかなわない。しかしそんなことが、この国ではしばしばあったのである。
「日本で初めて確定死刑囚が再審無罪になった」と序詞がついて語られる免田事件のことは今年三月号で触れた。八月に『検証・免田事件[資料集] 1948年(事件発生)から2020年(免田栄の死)まで』(映画「免田栄 獄中の生」など収録のDVD付き)が出たので再び書く。
 冤罪が起きるには起きた理由がある。容疑者自身の弱さ、捜査のずさんさ、弁護士、検事、裁判官の人権感覚、メディアの姿勢など多角的な検証が必要だ。免田事件に関する文献は多数あるが、この『資料集』には最高検による異例の検証報告が採録され、未収録の資料をウエブサイト「刑事弁護オアシス」に導く案内がついていて、必見の書となるだろう。
 一九四八年十二月二十九日夜、熊本県人吉市の祈祷師の家で、夫婦が殺され、十代の姉妹が重傷を負わされた。人吉署に別件逮捕された免田栄は、拷問と誘導で「自白」させられ、強盗殺人罪で起訴される。公判で全面否認したが、熊本地裁八代支部で五〇年三月・・・

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