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社会・文化

《日本のサンクチュアリ》結核予防会

尾身茂「天下り先」は無用の遺物

2022年10月号

 目的を遂げたり失ったりした部門を廃し、新分野に資源を回すスクラップ・アンド・ビルドは、官僚組織が最も苦手とするものの一つだ。その悪弊を想起させたのが、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長の転身先だ。今年三月で独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)理事長を任期途中で退任した尾身氏が六月十七日に就任したのは、戦時の遺物とも言える公益財団法人結核予防会の理事長だった。
 結核予防会は一九三九年、香淳皇后の総理大臣宛ての令旨に基づき設立された。
 第一生命保険相互会社からの施設財産の寄付で同年九月に保生会館(現在の本部施設など)と保生園(現在の新山手病院)が開設され、十一月に保生園内に結核研究所ができた。
 設立目的は、戦争遂行体制の強化だ。長引く日中戦争のために三八年に国家総動員法が施行されたが、兵力、労働力の確保には、四〇年に人口十万人あたりの死者数が二百十二・九人と死因トップとなった結核の蔓延が壁だった。
 結核予防会の本部は旧厚生省内に設置され、初代総裁には皇族の秩父宮勢津子妃が就いた。抗生物質がなかった当時は感染者の隔離・・・

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