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連載

をんな千一夜 第69話

石井 筆子 献身を貫いた国際人
石井 妙子

2022年12月号

 総務政務官・衆議院議員の杉田水脈は過去に月刊誌で、(LGBTなどの性的少数者を)「生産性がない」と発言。十一月の参院特別委員会で野党議員から「(生産性という発想は)障碍者施設の津久井やまゆり園を襲い、入所者を殺害した植松聖死刑囚と同じ発想だ」と批判され、発言の撤回を求められたが応じなかった。このやりとりを見て、今回、石井筆子のことを書きたいと思った。筆子の名は歴史に埋もれて知られていない。これは筆子自身が「道を伝えて、己を伝えず」という生き方を貫き、無名であることを望んだからではあるが、少し残念だ。今こそ光をあてられるべき人物であろう。
 筆子が生まれたのは文久元年。現在の地名は長崎県大村市、当時は大村藩と言われた小藩に生を享けた。父の渡辺清は大村藩の上級藩士で勤王派として藩外にも名を知られた人物。坂本龍馬に薩長同盟の構想を語り、西郷隆盛と勝海舟が江戸城無血開城を決める会談の場にも陪席していた。維新後は新政府に出仕することになり、筆子も明治五年に上京。半年ほど東京の旧大村藩主邸で藩主大村純煕の六女、知久の遊び相手を務めた後に、東京女学校へ入学する。この女学校は日本初の官立女・・・

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