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《世界のキーパーソン》アンワル・イブラヒム( マレーシア新首相 )

四半世紀の弾圧から不屈の復活

2022年12月号

 今から二十四年前。一九九八年の夏のことだ。一冊の本の出版が、アンワルの人生を暗転させた。
『アンワルが首相になれない五十の理由』と題した本は、時の副首相兼財務相に対して、重大な告発を行った。アンワルは同性愛者で、汚職まみれだという。同性愛行為は、マレーシアでは重罪だった。
 アンワルは、同年にマレーシアを襲ったアジア通貨危機を乗り切ったばかり。政界では「マハティール首相の後継はアンワルで決まり」という話でもちきりだった。九月一日に固定相場制に移行した翌日、アンワルは突如解任された。
 アンワルの周辺の人物二人が逮捕され、「性交」を自白。アンワルは九月二十日に逮捕された。裁判では、「性交時に使ったマットレス」なるものが証拠として提出された。これにアンワルの精液が付着しているというのだ。
「全く見たことがない。もちろん使ったことなどない」とアンワルは裁判で主張したが、裁判所は汚職の罪で懲役六年、同性愛の罪で懲役九年を言い渡した。アンワルの出廷時には、顔に黒いあざが残るなど、取り調べで激しい暴力が使われたこともうかがわせた。
 アンワルの運・・・

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