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社会・文化

益々人気の 「華文SF小説」

世界に広がる中国文化の新分野

2022年12月号

 華文SFの勢いが止まらない。コロナ禍や円安の影響もあって低調にも見える海外文学のなかで、ひとり気を吐いていると言っていいほどだ。
 華文SFとは、中国語で書かれたSF小説を指す。世界的なブレイクのきっかけになったのは、二〇一五年、SF界でもっとも名誉ある賞のひとつ、ヒューゴー賞の長篇小説部門を受賞した劉慈欣の『三体』シリーズだった。日本では全五冊からなる三部作が完結しており、版元の情報によると、全世界で累計二千九百万部、日本でも五十万部近く売れたという驚異の作品だ。
 内容は、太陽を三つ持つ惑星に誕生した三体文明との出会い、いわゆるファーストコンタクトを大きなテーマとする。旧来のスペースオペラ的な枠組みを残しながら、そこに斬新な発想や科学知識をふんだんに取り入れ、アメリカや日本のSFがおとなしく見えるほどのパワーを感じさせた。手旗信号で0と1を表す人列コンピュータに始まって、三体人の生存戦略である「脱水」や、陽子に回路を焼きつけて地球上のすべての情報を収集する「智子」、人類側の対抗措置としての「面壁者」、地球艦隊の宇宙船を次々と破壊する「水滴」、宇宙時代の核抑止論・・・

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