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社会・文化

白銀の狩人「エゾクロテン」の物語

「毛皮」を巡る歴史の考察

2023年1月号

 しんしんと積もる雪。厳寒期の森は色を失い、輪郭までもがぼやけて見える。死の世界か? そんなことはない。雪の重みにたわんだ枝の下に腰を下ろし、耳を澄ませていると、あちこちから生命の音が伝わってくる。
 にぎやかに通りかかるのは、シジュウカラ、コガラなどの小鳥たち。数十羽の群れが木の芽をついばみ、チチッ、ツツピーッと会話をするように枝先を渡ってゆく。キョッ、キョッと異質な声はキツツキの仲間のアカゲラか。よく聞くと、コゲラが樹皮をめくって越冬中の虫を探すカサコソ音も聞こえてくる。
 ふと気づくと、うるさいほどのさえずりに囲まれ、数分もすると、何事もなかったように去ってゆく。幻聴のような鳴き交わしが耳に残る。
 雪が降り続けると、バサッと枝が雪を振り落とす音が聞こえる。さらに小さな音に目をやると、これは珍しい。エゾクロテンが針葉樹の枝の上にいた。クロテンと言いつつ、体は黄褐色。顔は白い。黒目がちのつぶらな瞳でこちらを見つめたかと思うと、すぐ体をひるがえして木陰に消えた。
 かわいい顔だが、性格は超強気。この世に天敵などないと思っているらしい。野ネズミや・・・

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