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連載

現代史の言霊  第58話

二月の出頭 -「タンジェントポリ」汚職事件(一九九二年)-
伊熊 幹雄

2023年2月号

《我々は、イタリアで最も正直な政党だ》
ベッティノ・クラクシ(イタリア元首相)

「正直者は馬鹿を見る」という言葉は、どんな国にもある。筆者の体感では、先進七カ国(G7)では、イタリアが最もこの格言を暮らしに根付かせている。行列の並び方から贈り物(賄賂)まで、少しの機転や愛想で得する(またはそう感じる)のが大好きなのだ。
 イタリア政界がしばしば汚職事件に揺さぶられるのも、国民性と無関係ではない。一九九〇年代の「マーニ・プリーテ(清潔な手)」事件は中でも最大級だった。国会議員の半分以上が捜査対象になり、第二次世界大戦後の共和制(第一共和制)が崩壊してしまった。
 始まりは、B級映画のようだ。
 一九九二年二月のことである。
 ミラノにある養護施設のトップから「修繕工事請負金額の一〇%をおれに寄越せ」と迫られていた業者が、捜査当局に泣きついた。
 業者は、隠しカメラと録音装置を付け、要求金額の半分を持って事務所を訪ねた。請負金額一億四千万リラの五%の七百万リラだ。今の為替レー・・・

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