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連載

大往生考 第38話

胸痛む隣国の悲劇
佐野 海那斗

2023年2月号

 昨年末、中国人女性の知人から父親の逝去を知らせるメールを受け取った。彼女は、一九九〇年代に夫と共に日本の大学に留学し、そのまま日本に住み着いた。温厚で飾らない人柄で、私とは気が合い、家族ぐるみの付き合いを続けていた。知人やその家族に健康問題が生じた時には、いつも相談に乗っていた。
 知人には中国に残してきた父親がいた。母親は既に亡くなり、知人の妹夫婦と同居していた。父親は、元は経済学を専門とする大学教授だった。昨年、勤務していた大学から表彰され、十二月初旬、知人はその祝賀会に参加するため、夫を日本に残して中国に戻った。その頃ちょうど、中国政府はゼロコロナ政策を緩和しつつあった。実家に戻った知人からは「隔離や移動など、随分と簡単になった」と連絡があった。
 状況が変わったのは、十二月二十日頃だ。知人から「私以外の家族全員がコロナに罹った。大丈夫でしょうか」とSNSのメッセンジャーを介して相談を受けた。中国で流行しているのは、オミクロン株およびその変異株だ。感染力は強いが、毒性は低い。私は「普通の風邪なので、あまり心配しないでいい。万が一、ワクチンを打っていなくても、・・・

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