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連載

日本の科学アラカルト 150

二酸化炭素排出削減にも繋がる 植物光合成プロセスの解明

2023年2月号

 何十億年も昔、地球上で暮らしていた「生物」を震撼させる大事件が発生した。海中に出現したあるバクテリアが、猛毒のガスを放出し始めたのだ。そのガスは当時の海水に大量に含まれていた鉄と結びついていった。鉄がなくなると、当然ながらガスは海中で飽和状態となり、大気中へと放出されていく。当時の「生物」はこの猛毒ガスによって、ほとんどが死滅してしまった―。
 以上は実話だが、ガスによって「虐殺」された生物は知的生命体ではない。細菌であり、このガスの正体は酸素だ。我々大半の地球上の生物にとって必要不可欠な酸素も、当時、地上で生活していた嫌気性細菌にとっては毒でしかなかった。バクテリアの働きにより大気中の二酸化炭素はどんどん酸素に変わる。そして現在のような大気環境へと変化したのだ。
 このバクテリアは光エネルギーを使って二酸化炭素を酸素に変え、体内に炭素を固定した。つまり「光合成」である。その反応プロセスは現在も重要な研究テーマのひとつである。
 植物の光合成の効率を上げることができれば、大気中の二酸化炭素を植物の体内により多く取り込むことができ、農産物の収量を増加させる・・・

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