三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

社会・文化

種子「遺伝子バンク」が風前の灯

安全保障は武器より「タネ」

2023年3月号

 先進七カ国首脳会議(サミット)の準備が着々と進む広島県で、長い目でみれば日本の食料事情を脅かす「小さな蛮行」が秒読み段階に入っている。三十五年以上活動を続けてきた「広島県農業ジーンバンク」(東広島市)の閉鎖だ。政府は昨年末に「食料安全保障強化政策大綱」をまとめたが、食料のサプライチェーン(供給網)の最も上流に位置する種(タネ)など遺伝資源の重要性をまったく認識していない。
 ジーンバンクとは、動植物や微生物の遺伝資源を収集し、生物多様性を保全、農作物の品種改良や医薬品の開発などに活用する「遺伝子銀行」のことだ。超低温の冷凍庫を備え、五十万点を超える収集規模の施設から、種子交換所のようなものまで形態は様々だが、欧米を中心に世界各地に存在する。日本では農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構、茨城県つくば市)が、二十三万点以上の植物遺伝資源(うち約二十万点が種子)を収集し、中核的な役割を担っている。
 こうした大規模な施設だけではなく、災害や停電などの事故に備えるため小規模のジーンバンクをネットワーク化する分散管理も重要性を増している。広島県農業ジーンバンクは一九八八・・・