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連載

現代史の言霊  第60話

四月の合意 - 北アイルランド和平合意成立 (一九九八年)
伊熊 幹雄

2023年4月号

歴史の手が私たちの肩にかかっている

トニー・ブレア
(英国首相)


 北アイルランドが大変だと分かったのは、一九八四年十月十二日に起きた英国のホテル爆破事件の時だ。筆者は英国留学を準備中で、ブライトンのグランド・ホテルが爆弾で吹き飛ばされた映像に愕然とした。同ホテルには、マーガレット・サッチャー首相(当時)夫妻ら、当時の与党・保守党の幹部が多数宿泊中だった。
「この国でこんなことが起きるなんて誰も思いもしなかった」という首相の言葉は、耳に残った。首相一行はブライトンで開催中の保守党大会のため、同ホテルに宿泊していた。爆発は、午前二時五十四分。首相は「まだ部屋で原稿の準備をしていた」と語った。
 爆弾は六二九号室に仕掛けられた。ほぼ一カ月前の九月中旬、この部屋に容疑者らしき男が三泊した。時限装置はずっと、爆破の瞬間まで時を刻んでいた。

「幸運は一度あればよい」

 アイルラン・・・

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