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連載

皇室の風 第176話

儒教という補助線
岩井 克己

2023年4月号

「土葬=神道式」「火葬=仏教式」という単純な二分法的既成概念では、今後の大喪の姿や葬送の思想がどう変わるのか描けず、悩んでいた。とりわけ泉涌寺霊明殿の位牌群を見た身には、一千数百年に及ぶ皇統が凝集して可視化されたような光景が時折脳裏に浮かび、落ち着かないでいたのである。
 ところが近年、こうした皇室の墓制や葬祭の歴史と現状とについて、宮中三殿を中心とした旧皇室令祭儀体系の中に位置づけ直し、新たな全体像として把握すべきことを教えられる研究業績が現れていることを知った。
 元泉涌寺心照殿研究員、石野浩司。伊勢神宮の神職として神宮司庁広報室に勤め、皇學館大学神道研究所研究員などを経たあと、皇室の菩提寺とも呼ばれる泉涌寺の宝物館「心照殿」の研究員となったという珍しい経歴の持ち主だ。法名も持っているようだから、皇祖神を祀る神道の中心地伊勢と仏教の皇室菩提寺泉涌寺それぞれの歴史の〝現場〟に身を置き実態に即した研究を積み重ねた、いわば“神仏両刀遣い”の研究家のようだ。
 その精細な実証的論文を読むと、皇室の祭儀体系の歴史と現況を理解するには、明治・・・

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