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社会・文化

歌劇『中国のニクソン』が欧州で人気

今こそ鑑賞すべき「意欲作」の魅力

2023年5月号

《中国のニクソン》というオペラがある。一九七二年二月二十一日から二十八日のアメリカ合衆国大統領ニクソンの北京訪問をテーマに、アメリカ人作曲家ジョン・アダムズが作曲。一九八七年のヒューストン・グランド・オペラで世界初演以降、現在までに総計三百回を超える舞台上演が繰り返されるアダムズの出世作である。
 皇帝や王族、政治や宗教指導者の苦悩を史実に脚色を交え描く歴史ドラマは、オペラには最大のテーマのひとつ。二十世紀にも、エリザベス女王戴冠を祝い書かれたベンジャミン・ブリテンの《グロリアーナ》を筆頭に、旧ソ連や中国には翼賛イベント用歴史オペラが無数に存在する。だが、評価が固まらない同時代史を真っ向から扱う大作は西側には殆どなく、二十世紀後半の成功例としてはこのアダムズ作品がほぼ唯一かも。
 とはいえ「現代オペラ」というハードルが高いジャンルだ。いかな評価されようが、世界の劇場で年にひとつほどの新演出が出るくらい。ヴェルディ《ドン・カルロ》やムソルグスキー《ボリス・ゴドゥノフ》のような通常演目に入る政治オペラというわけにはいかなかった。ところが二年間の実質上の舞台活動中止が明け・・・

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