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社会・文化

歌舞伎「独占興行主」松竹のジレンマ

「猿之助事件」で露呈した限界

2023年6月号

 歌舞伎はかつて、個々の劇場が独自に役者を押さえて興行をしていた。そうした劇場を、松竹が徐々に集約し、すべて傘下に置いたのは、一九二九年(昭和四年)のこと。以降、同社はこの伝統芸能の興行をほぼ独占して行ってきた。しかし百年足らずの間に歌舞伎という芸能を取り巻く環境は激変し、松竹という企業の性格もすっかり変わった。松竹は歌舞伎の興行主の資格があるのか―。人気役者、市川猿之助の自殺未遂事件を通して、そんな疑問が浮上している。
興行師集団になれない現実
 事件については報じられている通り。猿之助のセクハラ・パワハラ疑惑の記事が掲載された女性週刊誌の発売日に、自宅で彼の両親が命を落とし、自身は意識が朦朧とした状態で発見された。
 この件で松竹は前面に出ない一方で、「役者らに緘口令を敷いている」(芸能記者)といい、関係者の口は一様に重い。事件直後、松竹はメディアに対してコメントを発表しているが、性加害疑惑に関する部分に次の一文がある。
「雇用関係にない歌舞伎俳優さんのプライベートな事に関わる内容で限界もございます」
 なぜか猿之助と雇用関係にない・・・