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連載

金融の世紀

第6回【愛国心に訴え、戦争債を売る】
黒木 亮

2023年6月号

一八六一年一月、ジェイ・クックはフィラデルフィアにジェイ・クック商会を開いた。姉の夫のウィリアム・ムーアヘッドとのパートナーシップ制で、持ち分はジェイが三分の二、ムーアヘッドが三分の一。
 オフィスは、南三番通り百十四番地の石造りの二階建てビルの一階で、実質的にクックが一人で取り仕切る会社だった。
 同年四月、南北戦争が始まると、クックは、資金調達の新しい手段について、チェイス財務長官や上院の財務委員会に対し提案した。橋渡し役は、クックの四歳下の弟で、後にワシントンD.C.の初代知事になるヘンリーだった。
 ヘンリーは、ケンタッキー州初の大学であるトランシルヴァニア大学を卒業し、三十代の頃、共和党の新聞「オハイオ・ステート・ジャーナル」のオーナー兼編集長を務めた。その関係で、同州選出の上院議員から同州知事をへて財務長官になったチェイスとは親しい間柄だった。
 開戦の二カ月前、連邦政府は金利六%の二十年物国債八百万ドルを競争入札方式で売り出し、ニューヨーク、ボストン、フィラデルフィアなどの銀行や個人、百五十六人(社)が入札に参加した。結果は、全額が・・・

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