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連載

現代史の言霊  第63話

ジョン・デミャニュク裁判(一九九三年)
伊熊 幹雄

2023年7月号

私はこの目を過去に見た

エリヤフ・ローゼンベルグ(ホロコースト生存者)


 その男の失敗の種は、米国への移住申請にあった。第二次世界大戦が終わって間もない一九四八年、米国は大戦で生じた欧州難民二十万人に、米国への移住を認めた。男は占領下のドイツで移住を申請し、五二年に渡米を果たした。やはり難民だった妻と、生まれたばかりの娘が一緒だった。
 男の名前は、ジョン・デミャニュク。一家はオハイオ州に居を構えた。ジョンはフォード工場の工員として働き、米国籍も得た。子供は三人に増え、一家は平和で穏やかな生活を送っていた。
 七七年。引退生活に入っていたジョンの人生が一変した。「トレブリンカ強制収容所の悪名高い看守」と名指しされ、裁判にかけられることになったのだ。
 実はそれまでにも、ナチス強制収容所の看守として特定され、訴追を受けたこともあった。だが、その頃は、ほかにもたくさんの戦争犯罪人がいて、本格的な訴追には至らなかった。

オハイオにいた「イワン雷帝」・・・

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