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連載

テイレシアスの食卓 vol.04

フランス料理と「イメージ」
河井 健司

2023年7月号

 何事にも心象、つまり対象に抱くイメージは大切だ。これが物販の世界、とりわけファッションブランドなど独自の価値を打ち出す商売では生命線である。
 フランスに本拠地を置く世界的企業の中でLVMH社やロレアル社は、扱う商品の性格ゆえ、ブランディングに注力し続け成功をおさめた。そのLVMH社が取り扱う商品の中でも、フランス・シャンパーニュ地方産の発泡酒、シャンパンの成功の歴史は興味深い。
 十八世紀に産業革命をなしたイギリスの、資本主義社会ヒエラルキー上位たるブルジョア階級と、古くからの特権階級である王侯貴族に向け、地の利を生かして輸出されたフランス産の酒、シャンパンとボルドーワインは、パクス・ブリタニカを背景に世界のスタンダードとなった。言うなれば、イギリスが宣伝してくれたのだ。ことシャンパンは、これを境に食前酒としての地位を確立し、現在では多くの人が食前酒といえばシャンパンをイメージするようになった。ちなみにシャンパンに刷新されるまでの食前酒の定番は、シェリー酒およびヴェルモット酒だった。
 当時のイギリスの世界的な影響力によって、その地位を盤石としたのは、・・・

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