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「差別大国」 フランスの真実

極右化する警察の「暴力支配」

2023年8月号

 フランスの今夏は暴力で始まった。六月下旬、北アフリカ系の十七歳の少年が警官に射殺されたのをきっかけに各地で若者が暴徒化し、建物や車両の破壊、略奪が相次いだ。約一週間でほぼ沈静化したが、仏社会はなお不信と憎しみに包まれる。暴動の背景に警察による人種差別的な暴力や取り締まりの横行があるのは明らかだ。だが、政府はその公然たる闇に踏み込めず、人々に「平等の国」という虚構を強いる。
 仏西近郊ナンテールの路上で、黄色いベンツを検問する二人の警官。車体の運転席側に体を寄せ、一人は窓越しに銃を構える。車が動き出すと、「パーン」と乾いた銃声が響いた―。現場で撮影された映像には、いとも簡単に引き金を引く警官の姿が捉えられている。
 射殺されたのはナエル・Mさん。アルジェリアとモロッコにルーツを持つ移民系だった。
 ナエルさんの死は、移民系の若者らの憤りを爆発させた。フランスは憲法で、人種や宗教の差別のない法の下の平等を定める。「フランス人」であることに人種は問われないとする考えだ。こうした建前の下、人種、民族、宗教に関する統計を取ることすら禁じられている。
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