三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

皇室の風 第179話

霊代と位牌
岩井 克己

2023年8月号

 京都市東山区の京都国立博物館では平成二十七(二〇一五)年、「明治古都館」の改修工事に伴い敷地内の発掘調査が行われた。明治初期に二年間だけ存在した「恭明宮」の痕跡とみられる石組み溝や投棄された大量の瓦などが見つかったが、それ以外に目立つ出土物はなかったようだ。
 同宮が建設されたのは明治四(一八七一)年。広い敷地の北端に「霊牌殿」があり、それを守るかのように南側に多数の建物が配されたが、わずか二年後には廃止されてしまったという。
 王政復古の大号令のもと、祭政一致・天皇親祭の掛け声とともに神仏分離・廃仏毀釈の過激な仏教排斥・破壊運動が吹き荒れた時代だ。歴代天皇が暮らした「清涼殿」にも仏間にあたる「御黒戸」があり、仏像・仏具、位牌などが安置され女官らが仕えていたが、全て撤去された。さすがに「毀釈」するわけにいかなかったか、あるいは「保護」するためか、方広寺の寺領跡の区画に建物群を建て「恭明宮」と名付けて収容した。
 北端の霊牌殿の南側に並んだのは元女官三十七人のための隠居所である。奠都により、天皇・皇族、公家のみならず、仕える人々や出入り商人・職人までもが一・・・

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます