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連載

大往生考 第45話

医療過誤の遺族の心情
佐野 海那斗

2023年9月号

 医療過誤は、現代医療の深刻な課題の一つである。二〇一六年に米ジョンズ・ホプキンス大学が発表した研究によれば、医療過誤による死亡は米国で三番目に多い死因となっており、年間約二十五万人が死亡していると推定されている。日本の詳しい研究はないが、同様の状況が存在する可能性が高い。医療過誤により亡くなった患者の遺族とどう接するか、その難しさを最近痛感させられた。
 その患者は七十代の女性だった。長男は筆者の古くからの知人で、患者の死後、約一カ月してから連絡を取ってきた。彼の話によると、「母は医療ミスのために亡くなったと思うが、主治医や病院の対応に納得していない」とのことだった。
 昨年十二月、風邪の後に咳が続いていたため、地元の病院で胸部CT検査を受けたところ、右肺に異常陰影が確認された。主治医からは、「悪性腫瘍の可能性もある」と指摘された。患者は呼吸器内科に紹介され、異常部位の組織を採取して詳しい診断を行うために気管支鏡検査を受けることになった。
 患者には心筋梗塞の既往があり、気管支鏡検査に伴う合併症のリスクが高まる可能性があった。知人の話によると、検査前に「・・・

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