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連載

金融の世紀

第9回【スミス・バーニー商会の誕生】
黒木 亮

2023年9月号

 ジェイ・クックは、五〇パーセントの株式を保有し、資金面も管理していた大陸横断鉄道、ノーザン・パシフィック鉄道の幹部に対し、再三にわたって債券の販売額以上の投資をしないよう求めた。が、彼らに無視された。
 この頃の鉄道事業者は荒っぽく、需要に関係なく最大限の鉄道を建設し、それを可能な限りの高値で売ろうとする山師的な者が多かった。また建設会社が鉄道会社を食い物にして、利益を上げていた。
 ジェイ・クック商会全体の資金繰りを任されていたニューヨーク店の責任者でパートナーのハリス・ファーネストックは危機感を覚え、ノーザン・パシフィック鉄道に対する資金支援を中止するようクックに懇願し続けた。
 クックは資金対策として、ロンドンで一千万ドルの債券を発行するか、米海軍にロンドンの預託金を増やしてもらうかしようとしたが、どちらも実現しなかった。
 一八七二年十二月になると、ジェイ・クック商会が資金繰り危機に瀕しているという噂が広まり、預金の取り付け騒ぎが始まった。
 この頃、要求払預金に対して四パーセント以上の金利を払う金融機関はほとんどなかったが、・・・

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