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連載

をんな千一夜 第78話

李徳恵 韓国併合が生んだ哀話
石井 妙子

2023年9月号

 日本と朝鮮半島の歴史は、どうしてこうも、物哀しいのだろう。
 韓国併合の後、日本人は朝鮮王族と日本人との通婚を強引に推し進めて同化を図ろうとした。
 朝鮮の王、高宗は妻の閔妃を日本人に惨殺された上、退位を余儀なくされた。その上、まだ幼かった息子の李垠は日本に留学させられて親子離ればなれとなってしまう。高宗は李垠が留学を終えて祖国に戻る日をひたすら待ち続けたが、成人した後も帰国は許されなかった。結局、李垠は日本で陸軍軍人にさせられた上、皇族の娘である梨本宮方子との結婚を勝手に決められたのだ。李垠には幼少期に選ばれた朝鮮貴族の許嫁が既におり、父の高宗は方子との結婚に強く反対したところ、直後に急死。周囲は憤死だとも、日本人による毒殺だとも噂した。
 この高宗には閔妃が亡くなった後、若い女官との間にもうけた王女がいた。李垠にとっては異母妹にあたり、名は徳恵。五百年続いた朝鮮王朝、最後の王女だった。生まれたのは一九一二年、母は梁春基という名の女官である。
 徳恵が生まれる三年前の一九〇九年には伊藤博文が朝鮮人青年の安重根にハルビンで射殺されるという事件が・・・

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