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連載

テイレシアスの食卓 vol.07

高評価高級店の気味悪さ
河井 健司

2023年10月号

 たまにはワインにまつわる話を、少しご紹介したい。その前に現在の世界レストラン事情について。
 誤解を恐れずに言えば、レストランを含む飲食店において今の時代、美味しさの追求は正義では無くなってしまった。日本やフランスに限らず、世界各地で高評価を受けている高級店の目指すところが一昔前と比べてすっかり変わってしまったのだ。
 SNSその他、電子および紙の媒体からの情報を整理すると、近頃評判が良いとされる店舗特有の性質が見えてくる。つまり、食料問題を提起しつつサスティナビリティを掲げ、風変わりな食材の組み合わせと独自の調理理論で、他にはない価値観を打ち出す店舗がこれにあたる。
 もちろん、とりわけ飲食業界が環境に配慮するのは当然であるし、高級店を訪れる人の大半は非日常感を求めて足を運んでいるのだから、店舗ごとの個性を打ち出すのは当然だろう。しかしながら、俯瞰して捉えるとなんだか底気味悪い。何故そう感じるのか。筆者が古い考えの人間だから、という理由だけではなさそうだ。
 話題の店舗にはほとんどの場合、広告代理店もしくはこれに類する仕掛け人の存在がある。ち・・・

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