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連載

をんな千一夜 第79話

坂本龍馬の妻・お龍 明治が生き辛かった「女傑」
石井 妙子

2023年10月号

今から、もう二十年前になる。小泉純一郎元総理の地元、横須賀で取材をしていた際に年配の住民から、こんな話を聞いた。
「お龍さんはさ、晩年そりゃ、大変な酒飲みだったらしいよ」
 坂本龍馬の恋女房として知られる「お龍」が神奈川県の横須賀で生涯を閉じ、墓もここにあると聞いて私は驚いた。てっきり龍馬の故郷である高知もしくは京都あたりにあると、思っていたのだ。
 お龍といえば、なんと言っても知られているのは寺田屋の一件だろう。伏見の船宿、寺田屋にいた龍馬を捕らえようと、深夜、幕府伏見奉行の捕り方がやってくる。これにいち早く気づいたのが、風呂につかっていたお龍。彼女は素肌に袷一枚で階段を駆け上がると龍馬に伝えた。この機転によって龍馬は寺田屋から逃げ出すことに成功する。
 龍馬は故郷にいる姉の乙女に宛てた手紙で、「まことに面白き女」「難に合いし時も、このお龍がおればこそ龍馬の命は助かった」とお龍を称えた。
 豪胆で行動力のある女。このお龍が京都に生まれたのは天保十二(一八四一)年のことだった。
 父の楢崎将作は青蓮院宮の侍医を務める医者で京都・・・

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