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連載

現代史の言霊  第67話

「歌う革命」(一九八八~九一年)
伊熊 幹雄

2023年11月号

エストニアは単一不可分の主権を有する
エストニア「主権宣言」の一節

 ソ連は一九九一年に崩壊するまで、「民族の牢獄」と呼ばれた。ソ連共産党が、十五の民族共和国を強権により支配していたからだ。一九八五年にミハイル・ゴルバチョフが共産党書記長となり、「国家再建」に着手して、支配下の諸民族にも一定の自由を与え始めると、各共和国は大きく揺れ始めた。
 バルト海沿岸にある三つの小共和国エストニア、ラトビア、リトアニアは、特に「独立」への動きが盛んになった。三国は第一次世界大戦後に独立し、第二次世界大戦でナチス・ドイツに侵略されるまで、独立国家だった。
 なぜこの三国が先頭を走ったのか。現地の人たちの武器は、音楽と言語だった。
 筆者が三国を取材した経験では、三国の人々は、教育の有無にかかわらず多言語を操った。リトアニア人、ラトビア人は、それぞれの国語に加えて、ロシア語を話したほか、ポーランド語にも通じていた。若くて教育のある人たちは特に、「何よりの情報源」として、自由・・・

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