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連載

大往生考 第47話

患者の絶望をどう癒やすか
岩井 克己

2023年11月号

 延命を望むがん患者にとっては、二人の主治医が必要かもしれない。治療する主治医と、支える主治医だ。最近、そのことを痛感させられた。
 患者は四十代の女性だった。進行胃がんで亡くなった。私が患者と知りあったのは、彼女の叔父から「病気の相談に乗ってほしい」と頼まれたからだ。叔父は首都圏で中小企業を経営しており、面倒見がよく、腹が据わった人物だ。彼も大腸がんを経験していて、私が主治医としてフォローしてきた。
 患者が胃がんと診断されたのは七年前だ。患者はがん家系で、三十代後半から定期的にがん検診を受けていた。ある年、上部内視鏡検査を受けたところ、胃と食道の接合部にがんが見つかった。
 食道胃接合部がんは、近年注目を集めている疾患だ。胃酸の食道への逆流が関係するとされ、胃酸の分泌を抑制するピロリ菌が蔓延していた頃はあまり問題とはならなかった。近年、ピロリ菌の感染は激減し、胃がんは減り続けているが、ピロリ菌感染とは無関係の食道胃接合部がんは増加傾向だ。国立がん研究センターの報告によれば、胃がんの三・五%が食道胃接合部がんである。
 食道胃接合部がんについて・・・

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