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連載

大往生考 第48話

予期せぬ「余命宣告」
佐野 海那斗

2023年12月号

 人は一人では生きていけない。病を得ればなおさらだ。最近、そのことを痛感する経験をした。
 その患者は六十代の女性だった。会社経営の夫と北関東で二人暮らしをしていた。二人の息子は独立し、都内に住んでいる。
 患者はインテリだ。父親は大学教授で、患者も都内の大学の薬学部を卒業している。大学卒業後、程なく結婚したため、薬剤師としての勤務歴は短いが、医療に関する基本的な知識は持っている。
 患者夫妻は共にがん家系だ。夫から健康相談を受けた私は、がん検診を受けることを勧めた。昨年十月、患者夫妻は、私の助言に従い低線量CT検査を受けた。
 低線量CT検査とは、被曝を減らすため放射線量を減らした肺がん検診で、胸部X線検査より早く肺がん病変を検出することができる。二〇一一年に米『ニューイングランド医学誌』に掲載された五万三千四百五十四人の被験者を対象とした研究によれば、X線検査を用いた肺がん検診と比べ、低線量CTを用いた場合には、肺がんによる死亡が二〇%、総死亡が七%低下したという。
 幸い、夫婦共、低線量CT検査で肺がんは見つからなかった。しかしな・・・

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