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連載

金融の世紀

第12回【モルガン・グレンフェルの誕生】
黒木 亮

2023年12月号

一八七九年、四十二歳になるピアポント・モルガンが、鉄道支配を本格化することになる案件が登場した。ニューヨーク・セントラル鉄道の株式売出しである。
 同社は、ニューヨークとスタテン島を結ぶフェリー会社の経営者からのし上がった「鉄道王」コーネリアス・バンダービルトがつくり上げた会社で、ペンシルヴェニア鉄道、ボルチモア・オハイオ鉄道、エリー鉄道と並ぶ四大鉄道の一つだった。同社の路線はニューヨークからオールバニへ延び、そこから西に進んでナイアガラの滝があるバッファローに至る総延長四千五百マイル(現在のJR東日本とほぼ同じ)に達していた。
 売り出す株は二十五万株で総額二千五百万ドル(現在の約七億五千五百万ドル)という史上最大規模だったため、値崩れが懸念された。ピアポントは、ロンドンのJSモルガン商会に一部を引き受けてもらい、外国で売るなどして、成功裏に二十五万株を売り捌いた。取扱い手数料は実に三百万ドルという巨額なものに上った。
 同時に、多数の株主から議決権信託を受け、米国の鉄道株で痛い目に遭わされてきた英国の投資家のため、ニューヨーク・セントラル鉄道が責任ある・・・

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