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連載

をんな千一夜 第82話

山田 わか 色褪せない「母性保護」
石井 妙子

2024年1月号

「異次元の少子化対策」という。産めよ増やせよ国のため、の言葉が頭に浮かぶ。こうした国家が掲げる政策には、もう少し注意深くありたいものだが、ワイドショーなどを見ていると、女性識者たちは学費の無償化といった政策を、おおむね財源を問わないまま好意的に受け入れがちだ。だが、恵まれた彼女たちに、果たして底辺に置かれた人々の苦しみは、どこまで内在的に理解されているだろうかと思うことがある。
 山田わかの名は、現在、あまり知られていない。だが、かつては女性識者の代表として、平塚らいてう、山川菊栄、与謝野晶子らと並び称されていた。
 そんなわかには、長く秘した前歴があった。かつてアメリカの売春街におり、「アラビアお八重」の名で働いていたのだ。そうした境遇から、一流の女性評論家へと変身を遂げたのだ。
 わかは明治十二年、三浦半島の久里浜に生まれた。生家は名主を務めた富農だったが、次第に落ちぶれていく。わかは高等小学校に通いたいと訴えたが、農家の女に意味はないとされ尋常小学校(四年制)しか出してもらえず、その上、十六歳になると、小金を貯めた商家に嫁がされる。
 不本・・・

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