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連載

現代史の言霊  第70話

ソ連軍のアフガニスタン撤退 (1989年)
伊熊 幹雄

2024年2月号

私の後ろにはもう誰もいない
ボリス・グロモフ将軍

 2年半前の出来事から、入ろう。2021年8月15日。日本の終戦記念日にあたるこの日、アフガニスタンの首都カブールでは、大混乱が起きていた。
 イスラム原理主義組織「タリバン」の戦闘員たちがどっと首都に押し寄せ、世界中のテレビ画面の前で権力を奪取していった。
 アフガニスタンは日本の1.7倍もの面積がある。そんな広い国の政変は、まるで映画のクーデター場面のように、首都のごく狭い一角で短時間に起きる。
 21年8月の時にも、米国ワシントンのホワイトハウスや、ロシア・モスクワのクレムリンで、国際政治の権力者たちは、テレビ画面を見ながら、それぞれの対応を話し合うしかなかった。
 首都攻略はもちろん、政変の最終段階である。21年の場合は、1月に就任したばかりのジョー・バイデン米大統領が4月、「9月11日までに在留米軍を無条件で完全撤退させる」と発表した。その直後から、タリバンの全土での攻勢が始まった。
 米軍が去るのなら、各地の権・・・

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