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連載

本に遇う 第290話

あってはならないこと
河谷 史夫

2024年2月号

〈世の中にたえてさくらのなかりせば春の心はのどけからまし〉という在原業平の歌は、ただでさえこの世は辛いのに桜があるから心乱れる。だがせめて一時桜に慰めを得ようと解される。今年も大勢の人たちがあってはならないことに見舞われて、春が来ても花見気分になどなれなくなった。
 震度7は震度表にはあるがあってはならない。それが元日の能登で起きた。震度7は1995年の阪神・淡路大震災から新潟中越(2004年)、東日本(11年)、熊本(16年)、北海道胆振東部(18年)と近年幾度もあった。ほぼ4年にいっぺん、日本のどこかが激震に揺れている。
 世界でも有数な混雑ぶりで知られる空港の滑走路に、離陸機と着陸機が同時にいるなどということはあってはならないことだ。それが正月2日の羽田であった。
 炎上する日航機から乗客が「奇跡の脱出」をする18分間をテレビで見た。記者駆け出しのころ、雫石の上空で全日空機と自衛隊戦闘機が空中衝突して162人が死んだ事故が頭をよぎった。
 東日本大震災のとき福島原発がメルトダウンして「想定外」という言葉が飛び交ったが、あってはならないことの・・・

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