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連載

大往生考 第50話

被災地の殉職者を忘れない
佐野 海那斗

2024年2月号

 元日の世を切り裂いた大災害、能登半島からは今も痛ましい被害が伝えられている。胸が痛む話の中で、私の目を引いたのは、輪島の消防団員の死だ。出動準備中に家屋が倒壊し、帰らぬ人となったという。大地震は「町の人々を守るために」との想いまで圧し潰してしまった。
 私自身も、東日本大震災の際、現地へ赴き、医療支援に従事したことがある。その時に過ごした福島県相馬市のことを思い出した。
 相馬市は白砂青松で知られる松川浦を有し、「常磐もの」を水揚げする原釜漁港、磯部漁港がある町だ。震災前、沿岸部には旅館経営者や漁業関係者などが暮らしていた。
 東日本大震災では、この地を9.3メートル以上の津波が襲い、458人が亡くなった。この中には10人の消防団員が含まれていた。相馬市のホームページには、「消防団員は、非常勤の地方公務員で、普段は仕事や学業を営みながら、災害が起こった際には、地域防災の要として活動を行っています」とある。
 彼らが亡くなったのは、津波から逃げ遅れたからではない。住民を避難させる最中に津波に呑み込まれたのだ。
 当時、小学校一年生だった・・・

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