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連載

皇室の風 第185話

宇多天皇の遺誡
岩井克己

2024年2月号

 令和六年元日午後四時十分、最大震度七(志賀町)の地震と津波が能登半島を襲った。揺れは関西、関東にも及んだ。
「田の神さま」を在すが如くもてなす〝民の新嘗〟の純朴な古俗「アエノコト」を守り伝えてきた奥能登の家々、かつてトキが舞った里山、港、朝市……懐かしい原風景が無惨に破壊され、火炎に包まれ、人々の命も肉親も、ささやかに生計を立てる生業も奪われてゆく光景に、胸えぐられる思いが広がった。
 皇室の「祈り」の伝統を考察するなか、前回は暮れの節折・大
祓、元旦未明の四方拝・歳旦祭や清涼殿の石灰壇について元泉涌寺心照殿研究員石野浩司の研究などに拠って紹介した。
 地震の発災は、奇しくも現天皇が夜明けとともに一年の諸災消滅と五穀豊穣を祈って四方拝、歳旦祭を執り行い新年祝賀の儀に臨んでいる最中だった。翌二日の一般参賀は急きょ中止された。
 天皇の祈りについて、平成の天皇(現上皇)は皇太子時代の昭和六十一(一九八六)年、戦国時代の後奈良天皇が疫病平癒を祈願する写経に添えた奥書きの痛切な一文を引いた。
「今茲に、天・・・

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