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経済

みずほ「楽天支援」の底なし沼

三木谷融資「膨張」木原社長の重罪

2024年3月号公開

 「楽天グループへの肩入れは危険すぎる賭けだ。みずほにどれだけ成算があるのか」
 金融業界紙記者はこう首をかしげる。年明け以降、楽天グループの動向に、同社株主が一喜一憂するシーンが繰り返されている。しかし内情をつぶさに見れば、とても楽観できる状況にない。巨額の有利子負債返済が始まろうとする中で、資金難リスクと常に隣り合わせ。みずほフィナンシャルグループ(FG)は、その楽天に抜き差しならない形で関与してきたツケを支払わされかねない。

村上世彰氏への「融資依頼」

 2月14日に発表された楽天の連結決算(2023年12月期)は、3394億円の赤字だった。五期連続の赤字で23年ぶりの無配に転落したのだが、この決算発表後に楽天の株価はなぜか上昇に転じた。赤字幅の減少や、懸案のモバイル事業の楽観見通しなどを好感したのだが、眉に唾したほうがいい。過大評価もはなはだしく、詳細は後述するが絵に描いた餅である。冒頭の業界紙記者は、みずほが抱えたリスクについて次のように説明する。
「昨春の公募増資の背後で、みずほは必要以上に楽天に突っ込んでしまった」
 時計の針を昨年五月十六日に戻す。楽天グループはこの日、最大で3300億円の公募増資と第三者割当増資を発表した。三木谷浩史会長兼社長の資産管理会社などへの割当で400億円余り、残りを市場から調達する見込みだった。
「三木谷氏は当初、全額を第三者割当で調達し、自分たちの出資額を400億円よりも増やしたかった」
 某ファンド関係者はこう内幕を話す。三木谷氏は当時の株価が底値だと信じ今後上昇すると見込んでいたからだ。さらに、手元資金が不足していた三木谷氏は、3月時点で「村上世彰氏に接触していた」(前出ファンド関係者)という。この際、三木谷氏は村上氏に対して楽天への出資ではなく、自らへの融資を依頼した。「最大で1千億円の融資を頼んだ」(同前)といい、村上氏は検討を約束したとされる。
 しかし蛇の道は蛇。この「金策」はすぐに、みずほ側の知るところとなる。みずほ銀行は楽天に2700億円以上(22年12月時点)融資するメインバンク。前身の日本興業銀行出身の三木谷氏とは強固な関係を築いてきた。
 みずほとしては、融資とは言え、村上氏からカネを引っぱることによる風評リスクを懸念。三木谷氏に「待った」をかけたのだ。三木谷氏は抵抗したようだが、最終的にみずほが説得。公募増資という形で決着したのである。前出記者が語る。
「みずほ内部からは、『三木谷の好きにやらせる代わりに、楽天と距離を置くという選択肢もあった』という声が聞こえてくる」
 その後、FG傘下のみずほ証券が大和証券などと共同でグローバルコーディネーターを務めた公募増資は、約2500億円しか集まらなかった。第三者割当増資分と合わせても3千億円に届かず、当初の目標(3300億円)は達成できなかった。
 当然、三木谷氏は不満だったろう。昨年11月にみずほFGはみずほ証券を通じて、楽天証券の株式を870億円分取得した。これには、増資での不足分を補塡するという側面もあったのだ。結果としてみずほは、ますます楽天に深入りすることになった。
「楽天の安心材料は中身がない」
 三井住友銀行の関係者はこう断言する。今年六月以降に本格化する社債償還についても予断を許さない。2200億円強の償還が控える今年中の分は本来、余裕があるとみられていた。楽天は昨春以降、楽天銀行の新規上場による株式売却などを合わせて、4700億円余りの資金を調達したが、最終的な赤字などで資金繰りには常時黄信号が灯っている。
 現に楽天は、今年1月10日、繰延税金資産700億円を取り崩すことを発表。一般に手元不如意になった企業の最終手段という印象が強いため、株価は下落した。
 懸案である楽天証券の新規上場計画の見通しも立たない。昨年11月にみずほ証券が追加出資した段階で上場申請は取り下げている。「楽天側は、延期しただけだと説明しているが、手数料収入下落などの要因もあるため、すぐには環境が整わない」(金融業界関係者)。しかも、みずほの持分が49%まで増加しており、仮に上場できても楽天の実入りは限られる。

プラチナバンドの持ち腐れ

 楽天の最大のネックは言うまでもなくモバイル(携帯電話)事業だ。23年12月期の決算では、モバイル事業単体での営業赤字が3375億円だった。前期は4792億円の損失を垂れ流していたことを考えると、たしかに赤字幅は縮小している。
 三木谷氏は2月の決算会見で今年度(24年12月期)中にモバイル事業を単月黒字化させる目標を掲げた。そのために必要な数字は、「契約回線数・800万~1000万件」「ARPU・2500~3000円」だという。ARPUとは一契約あたりの月間売上で、直近の楽天は2000円を割り込んでいる。楽天以外のキャリア三社のARPUは、3000円台後半から4000円前後。楽天は極端に低い。
 楽天の場合、「ゼロ円プラン廃止」により22年にARPUが前年比で一気に増加。しかし23年は前年比で微減してしまった。この原因のひとつが「苛烈なノルマを課せられた法人向け営業」(経済誌記者)だ。楽天モバイルは一年前と比較して契約回線数を一気に150万件伸ばし、609万件に到達している。しかし法人契約向け割引きなどの影響でARPUが下振れしたのだ。
 三木谷氏が掲げた目標を達成するには、昨年以上に契約回線数を増やした上で、ARPUも上乗せしなければならず現実味がない。
 市場では、モバイル事業の設備投資予算の減少も好意的に受け止められた。同社の今年の年間設備投資額は約1000億円の予定で、前年度(約1776億円)よりも圧縮されている。しかし、楽天は昨年末に総務省から割り当てられたプラチナバンドと呼ばれる周波数帯向けの設備投資をほとんど行わない。今後10年で、5544億円かけてこの周波数帯向けの機器を整備するというが、他社から「ケタがひとつ少ない」と指摘されており、実際には都市部などの一部で整備するだけに留まる。これではプラチナの持ち腐れ。楽天モバイルの繋がりにくさは改善されず、営業面でマイナスだ。
 他の事業は堅調の中、三木谷氏はモバイルに執着し続ける。前出金融業界関係者は語る。
「みずほFGが三木谷氏におつき合いするのは愚の骨頂」
 みずほFG木原正裕社長は、三木谷氏の一橋大学、旧興銀での一期下の後輩。すでに楽天グループ自体が「木原案件化」(前出記者)している。無茶な博打につき合わされるみずほのステークホールダーはいい面の皮だ。


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