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連載

現代史の言霊  第72話

天安門事件㊤ 胡耀邦死去(1989年)
伊熊 幹雄

2024年4月号

旗幟を鮮明にして動乱に反対せよ
人民日報社説

 一九八九年の話を続けよう。
 ソ連共産党のミハイル・ゴルバチョフ書記長の登場で始まった共産圏の変化は、八九年の春に中国で一気に噴火した。一枚岩だった中国共産党の指導部に、亀裂が走り、ついに激震へと発展していったのだ。
 中国共産党史の大きな節目となったのは、同年四月十五日の胡耀邦死去だった。
 胡は一五年生まれ。十代半ばで中国共産党に入党した。頭の回転が速く、柔軟な思考と行動力の持ち主だった。十一歳上の鄧小平の信頼が厚かった。
 胡と同時期に出世した、四歳下の趙紫陽(当時は国務院総理=首相)とは名コンビだった。鄧は「天が落ちてきても、胡耀邦と趙紫陽が支えてくれる」と最大級の賛辞で二人への信頼を内外に示した。
 中国は一党独裁の国だが、国民は様々な方法で指導者に対する好悪を表現する。鄧小平が復活した八〇年代前半以降は、鄧自身が人気者だったため、世論調査の動向が(もちろん加工された形で)表に出るようになった。
 国民の・・・