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社会・文化

今なぜ「カラヴァッジョ」なのか

前教皇が愛した「名画」の理由

2025年6月号

 現在開催されている大阪・関西万博の会場のヴァチカンパビリオンで、カラヴァッジョの《キリストの埋葬》が展示されている。4月に死去した教皇フランシスコ直々の選択であったという。
 ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(1571~1610)の人生と作品が辿った運命は実に奇妙である。今日ヴァチカン美術館に所蔵される《キリストの埋葬》は本来オラトリオ会のキエーザ・ヌオーヴァ教会ヴィットリーチェ礼拝堂のために1603年から04年にかけて制作された作品である。しかし1797年にナポレオン1世によって掠奪されルーヴル美術館に持ち込まれたのち、1816年に教皇庁に返還されたものだ。現在、キエーザ・ヌオーヴァ教会には模写が据えられている。
 実はローマ教皇自らカラヴァッジョに直接依頼して制作された作品は存在しない。確かにカラヴァッジョは当時デル・モンテ枢機卿、ボルゲーゼ枢機卿、あるいは後に教皇ウルバヌス8世となるバルベリーニ枢機卿らと面識があったにせよ、素行不良で名を馳せた一人の画家がここまで高位聖職者たちの庇護を受けていたことは実に奇妙である。
 しかし1606年・・・

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