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Book Reviewing Globe 493

ソフトパワー論は消えゆくのか

2025年6月号

 ソフトパワー論の提唱者として世界的に著名な国際政治学者であったジョセフ・ナイ元ハーバード大学教授がこのほど死去した。
 外交・安全保障の政策の現場でも働いた。1990年代のクリントン政権時代、日本をライバル視する経済第一主義派の政権中枢に対して日米同盟の重要性を説き、アジア太平洋における米軍のプレゼンス10万人体制を維持するナイ・イニシアティブを始動させた。
 ナイの最後の著作となったこの本は、自伝であるが、彼の国際政治理論の発展を知る上でまたとない証言ともなっている。ナイは、リアリズムの代表的な理論家であったハンス・モーゲンソーの講義を受けたが、「その理論は妥当ではあるが、理念、社会プロセス、経済統合などの要素を十分に織り込んでいない」点で、「狭すぎる」と感じた。ナイは、欧州の経済統合がドイツとフランスの歴史的対立を乗り越え、成果を上げつつあったことに注目していた。
 ナイにとって、「本来的にアナーキー的な世界においてどの国もパワー・バランスをとる以外ない現実を前にリアリズムから出発する」ほかない。しかし、往々にしてリアリストたちは、「そこから始めて、・・・