『フランス美食の世界』と題した展示が、東京日仏学院で行われていると聞き、５月初めの平日に足を運んだ。開催の情報を教えてくださったのは、当誌の読者で顧客の一人。フランス文化に精通している、この御仁から送られてきた写真付きのメールを拝見したところ、いくつか気になる箇所があった。それから何日か経ち、実際に自分の目で確かめようと、降りしきる雨の中を急ぎ足で会場に向かった。
　あいにくの天気で、日仏学院に人影はまばらだ。おかげで仕事の合間の限られた時間内で、しっかりと鑑賞できるのはありがたい。肝心の展示内容は、料理にまつわる風刺画的な写真作品が大半を占めている。その横で、中世の文献の紹介から始まるフランス料理の歴史の案内と、食批評の形成について説明したフリップボードが掲げてあった。やはり思っていた通り、中世と現代に関して、公開されて然るべき情報が示されていない。割愛したに違いないと考えたいが、少し残念な気持ちになった。
　フランスの中世で、料理に関する文献はさほど多くない。もちろん現代とは違い、大衆向けのレシピ本は存在すらしていない。その理由の一つは、当時の一般庶民の識字率の・・・