テイレシアスの食卓 vol.29
忘れてはいけない野菜
河井 健司
2025年8月号
フランスで「忘れられた野菜」と呼ばれる作物がいくつかある。実は複雑な意味をもつ、この言葉でくくられた農産物には、生産性の高い改良品種に押されてしばらくの間、市場から姿を消した伝統野菜も含まれる。例えばフダンソウなど、各地方の在来種がこれにあたる。
豊洲市場で国産品を見かけるパースニップも、冷涼地に強い特性を生かして古くから寒い土地で栽培されてきた地方野菜のひとつだ。また、移入したものの全国的には普及しなかった、大根や白菜といった野菜も同じ仲間に属する。19世紀に日本からフランスにもたらされ、ごく一部の地域が産地となったチョロギも同類で、その珍しさから「日本風」と名の付く古典料理に用いられていた。
キクイモやルタバガ、また橙色のカボチャも同じく「忘れられた野菜」と呼ばれる昔野菜に分類されるが、前述のものとは大きく意味合いが異なる。これらは、もともと家畜の餌として栽培が始まった作物であり、第2次世界大戦中の食べ物が乏しい時代、人々が命をつなぐため口にした野菜たちだ。ナチスに占領された過去をもつフランスにとって、戦時中の辛い記憶を呼び起こす作物は、戦後しばらく忌み嫌・・・
豊洲市場で国産品を見かけるパースニップも、冷涼地に強い特性を生かして古くから寒い土地で栽培されてきた地方野菜のひとつだ。また、移入したものの全国的には普及しなかった、大根や白菜といった野菜も同じ仲間に属する。19世紀に日本からフランスにもたらされ、ごく一部の地域が産地となったチョロギも同類で、その珍しさから「日本風」と名の付く古典料理に用いられていた。
キクイモやルタバガ、また橙色のカボチャも同じく「忘れられた野菜」と呼ばれる昔野菜に分類されるが、前述のものとは大きく意味合いが異なる。これらは、もともと家畜の餌として栽培が始まった作物であり、第2次世界大戦中の食べ物が乏しい時代、人々が命をつなぐため口にした野菜たちだ。ナチスに占領された過去をもつフランスにとって、戦時中の辛い記憶を呼び起こす作物は、戦後しばらく忌み嫌・・・