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社会・文化

釧路湿原「丹頂鶴」の物語

乱開発が迫る「命のゆりかご」

2025年10月号

 秋枯れが深まる茶色の湿原をタンチョウが3羽、ゆっくり歩いている。大きな体に似合わず、脚は折れそうなほど細い。少し小柄で茶色の羽毛が残るのは今年生まれの幼鳥か。足元を確かめ、長いクチバシで何かつついている。一夫一婦で生涯連れ添う。優雅で家族愛に満ちた姿は、瑞鳥と呼ぶにふさわしい。
 漢字では「丹頂」。頭部が赤いのは鶏のトサカと同じ、皮膚が露出している、と聞くと興ざめだろうか。興奮すると、血が巡ってより赤くなる。
 長い首の気管からほとばしり出る声は「クオーン」と響く。まさに「鶴の一声」。翼を広げると2・4mに達する。真冬に翼を広げ合う恋のダンス。白い息。優雅な舞い。白と黒のシンプルなコントラスト。夏目漱石の旧千円札に、絵になるつがいの踊りを見ることができる。
 住みかは湿原。アイヌ語ではサルルンカムイ。湿原の神。大きな指が沈み込みを防ぎ、いざとなればふわりと飛び立つ。湿原の浮島のような場所に巣を構え、ヒナを育てる。ただの草原ではキツネなどの天敵に襲われてしまう。ヒトや四足獣が近づけないところだからこそ、生きていられる。

人間社会とのトラブル・・・

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