それは、突然の電話だった。表示された見知らぬ番号は、都内の病院の看護師のものだった。
「Ａさんのご親族でしょうか。Ａさんのお母さまに連絡したところ、こちらに電話するよう指示されました」。そう前置きしつつ、看護師は切迫した声で続けた。「Ａさんは腹痛で１週間ほど前から入院されていましたが、本日、突然意識を失って、現在は心肺停止の状態です。至急お越しいただけませんか」。
　Ａは50代後半の男性で、私にとっては従兄弟にあたる。幼いころはそれなりに親しくしていたが、成人後は、ほとんど会う機会はなかった。
　ただ、Ａがさまざまな苦労を抱えていたことは聞いていた。関西の進学校を経て名門大学に進んだものの、注意欠如・多動症（ＡＤＨＤ）のために社会に順応できなかったようだ。
　ＡＤＨＤは注意の持続困難、衝動的行動、多動を特徴とする精神疾患だ。社会的に成功を収める人もいる一方、学業や仕事、対人関係に支障をきたし、孤立することもある。
　大学卒業後、Ａは職を転々とし、30代で外国人女性と結婚したものの、のちに離婚。東京へ移り住んだのち、障害者枠で就職してい・・・