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「対等な日米関係」は所詮無理

エズラ・ヴォーゲル(ハーバード大学名誉教授)

2010年1月号公開

 ―今年は日米安保改定五十年という節目。日米関係はどうなるでしょう。
 
 ヴォーゲル 日米同盟関係を再確認するいい機会だ。鳩山首相も日米同盟関係は大事だし、深化させると言っている。私は、日米関係の今後については楽観視している。ただし、「対等な日米関係」については懐疑的だ。この言葉自体は日本の政治家が四十年くらい言い続けてきたことだ。そして、米国側はライシャワー(元駐日大使)時代以来「日米関係はずっと対等だ」と言っている。しかし、学者としての立場から言えば、日米が「対等な関係」になるなどというのは所詮無理だと思っている。米国の軍事力は世界最強だし、核兵器を持っている。さらに、現在の日米安保条約では、米国は日本を保護するが、日本が米国を保護する責任はない。日本の政治家が「対等な関係になりたい」と言っていることには誰も反対などしないがね。

 ―日本の存在感が希薄になっていると言われていますが、どうですか。

 ヴォーゲル 中国との比較でいえば、相対的に日本の存在感は希薄になっているかもしれない。中国は(経済力でも軍事力でも)強くなっている。現在の国際問題を考えるとき、米国が同盟、友好国の日本よりも、中国と話さなくてはならないケースは避けられない。中国はその際、諸問題を日本より迅速に処理している。そして一度合意した事項については(日本より)早急に実現する。この点を日本は見習うべきだろう。在沖縄海兵隊再編問題は、十年以上前に日米合意されたにもかかわらず何も実現していない。

 ―米知日家の中には、「日本に失望した」という人もいます。

 ヴォーゲル 私自身は今まで日本に失望したことなど一度もない。確かに、かつてのような経済成長はもはや望むべくもないが、国民総生産(GNP)や国民生活の水準も変わっていない。しかも全世界といい関係を保っている。日本の企業は一生懸命やってきたし、これからもやるだろう。ただし、米国で勉強したいという若者が少なくなっているのは気になる。ハーバードにやってくる日本人留学生の数は、四十年前に比べると減った。

 ―民主党政権はいかがでしょう。また、日本の政治家はどうあるべきと考えますか。

 ヴォーゲル 政権を樹立したものの、経験不足、知識不足のためになにをやったらいいのか、分かっていない。もっとプラグマティックな政策をやるべきだ。鳩山首相の言う「東アジア共同体」構想にしても理想としてはいいが、共同体そのものを十年、二十年以内に実現させるのは不可能だ。鳩山首相は人柄はいいようだが、世界に通用する政治家としてはまだまだ未成熟。やはり世界に向けて話す時には、中曽根さん(康弘元総理大臣)のように専門的な知識を持ち、熟慮し、誤解を招かないように言葉を選んで喋らないといけない。その意味では鳩山首相は、国際社会ではまだ「丁稚奉公」の最中だ。さらに、民主党政権は、官僚叩きを「錦の御旗」に事務次官制度の廃止などいろいろ言っているが、官僚はうまく使うことが肝要。幸か不幸か日本には、これほどのシンクタンクはほかにない。官僚打破も結構だが、ならば、中曽根さんや大平さん(故人・正芳元総理大臣)が知恵袋として使った佐藤誠三郎さん(故人・元東大教授)たちのような優秀な学者グループを作ってブレーントラストにすべきだ。


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