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経済

《クローズ・アップ》最大の危機をチャンスに変えた

鈴木 修(スズキ会長兼社長)

2010年1月号

 二〇〇九年十二月九日、スズキとドイツのフォルクスワーゲン(VW)が包括提携し、販売台数でトヨタ自動車を抜く世界首位連合が誕生した。提携相手を米ゼネラル・モーターズ(GM)からVWへ―。GMの経営破綻という時の趨勢が後押ししたとは言え、スズキ会長兼社長、鈴木修の老練な交渉手腕と変わり身の早さは健在だった。
 鈴木は、情の深さとしたたかさを併せ持つ経営者だ。R・ワゴナー元GM会長とは互いの自宅を訪問し合う仲。〇八年十一月にGMがスズキの全株式を放出した時も、「GMは車づくりの師。提携関係は続ける」と言い続けた。その一方で、鈴木の“カンピューター”はGMの破綻を早い段階で予測していたようだ。
 その年の春頃、スズキは資金繰りに窮したGMから株購入の打診を受けたとされる。だが、鈴木は丁重に断った。かねてから鈴木は、GMとスズキの関係を「鯨と蚊」に例えてきた。「鯨とメダカではメダカは鯨に飲み込まれてしまう。蚊なら空を飛んで飲み込まれない」と、冷徹な経営者の顔も覗かせてきた。そして昨年六月、ついにGMが経営破綻。VWはこれを待っていたかのようにスズキへ・・・