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経済

浮上する「NTT埋蔵金」問題

民主党を操るための切り札か

2010年2月号公開

 各方面からの「NTT寄り」批判で急に怖じ気づいたということはないだろうが──。
 政権交代で総務相に就任した直後から「(NTTの)切り刻み論が横行している。それが改革なのか」などとNTT擁護の姿勢を鮮明にしてきた原口一博氏の態度が、年明け以降、百八十度方針転換しているのだ。
 年末年始の新聞インタビューでは、NTTが最も嫌う、同社の光回線インフラの分離について言及した。
「(NTTの組織再編に消極的だとか)そういうことはない。全く逆で(国民の情報通信の)アクセス権を保障するため、(光回線が)共通のインフラだとするなら、みんなで資本を出し合って共有化することも大事だと思う」(毎日新聞)
「敷設した通信インフラをドミナント(支配的事業者)のNTTが占有化し、競争事業者がうまく使えないというのではよくない。むしろNTTが光の敷設や管理を行う別会社をつくり、他事業者と協力してやっていくほうが、ウィン―ウィンの関係になるのではないか」(日刊工業新聞)
 国内の光回線インフラは、NTTがほぼ独占しており、KDDIやソフトバンクなどの競合各社が全国サービスを実現するにはNTTの光回線を借りなければならない。NTTは年間一千億円以上の赤字を出しながら光回線を敷設しているため、他社への貸出料をこれ以上下げられない。
 そこで以前から議論されているのが、NTTから光インフラ部門を切り離し、公的財産として各事業者が借りられるようにする「アクセス分離論」。NTTは組織の解体に繋がるとして絶対反対の立場だが、原口大臣がその可能性に言及したことでNTTには激震が走っている。
 さらに年明け早々、これまでNTTの再統合を後押しする言動を続けてきた親NTT派の実力者である鈴木康雄総務次官(旧郵政省出身)の突然の更迭によって総務省内の政治環境は一変。加えて、原口氏がNTTのライバルであるソフトバンクに急接近しているのも、NTT側の大きな不安材料だ。
 にわかに劣勢となったNTTだが、同社はこの不利な形勢を一気に逆転する「政治カード」を握っているといわれている。それはいま金融界の一部でにわかに注目を集めている「NTT埋蔵金」なるものだ。

五千三百億円の臨時収入に


 ここ四~五年、NTTは自社の株価下支えのため年間一千億円規模の自社株買いを続けてきた。これによって蓄積された金庫株は時価にして実に一兆円。これはNTTの発行済み全株式の一七%に上る。NTTの大株主はいわずとしれた財務大臣=政府だが、これに次ぐ株主が金庫株という異例の事態になっている。
 金融関係者はこう指摘する。
「NTTは金庫株の処理についていまだに方針を公表していない。以前は、株式交換によってNTTドコモを完全子会社化する手段とも考えられていたが、もっと有効な手段がクローズアップされている」
 それは一体なにか。
 二〇〇二年の規制緩和で、金庫株の処分は株主総会を経ずとも経営陣が自由に処理できるようになった。もちろん、消却も可能だ。一七%もの株式を消却するとどうなるか。十五億七千万株の発行済み株式数は十三億株程度まで圧縮され、そうなれば現在の政府保有比率三三・七%は必然的に約四〇%にまで上昇することになる。NTT法では発行済み株式の三分の一以上を政府が保有することを義務づけているが、余剰の約六%は政府が売却できる。
 NTTがこれを買い受け、この結果たまった金庫株を消却→政府が余剰分売却、という手続きを金庫株がなくなるまで繰り返すと、政府は総額で五千三百億円の国庫収入を得る計算になる。民主党にとっては、思わぬ「埋蔵金」になるというわけだ。
「NTTがこれを取引材料にしないわけがない」と同金融関係者は指摘する。
 金庫株の処分や自社株買いは株主への影響が大きい。NTTの三浦惺社長は、昨年夏、自社株買いや金庫株の問題について「中間決算までには決める」としていたが、結局年末になってもずるずると結論を引き延ばしているのには、こういった理由がありそうだ。
「民主党政権はどう動くかわからず、NTTもパイプ作りに苦労している。NTT首脳陣は、金庫株消却というプレゼントを、いつ、どこに持って行くか慎重に戦略を練っているようだ」(関係者)
 依然、民主党政権の財源不足は深刻。埋蔵金と引き換えにNTTは自社に有利な政策を誘導することができる。原口大臣が提案した「アクセス分離」の回避はもちろん、NTT持ち株会社と、東西地域会社の統合、さらにドコモの一〇〇%子会社化―すなわちNTTの実質再統合を埋蔵金拠出の条件にすることは可能だ。

組織問題を有利に誘導


 前号でも述べたが、選挙基盤の脆弱な原口氏は、昨年の総選挙前にNTT労組から三百万円の政治献金を受けた。当選し総務大臣に就任するや、このお礼とばかりにNTT労組出身の内藤正光・民主党参院議員を副大臣に起用した。内藤副大臣は就任直後の「NTTべったり」を主導した。
 だが本誌が報じた贈収賄疑惑以降、「原口氏は内藤氏と距離を置き始め、最近では満足なコミュニケーションもしていない」(関係者)という。小沢一郎民主党幹事長に東京地検特捜部の捜査が迫り、ようやく自分も「李下に冠を正さず」との思いを抱いたのかもしれない。  
「原口大臣はそもそも通信行政について明確な持論があるわけではない」と民主党関係者は指摘する。その時々の情勢によって簡単に方向を変える「風車大臣」という異名もあるほどだ。
 最大五千三百億円もの「NTT埋蔵金」。これをNTTが効果的なタイミングで差し出すことを約束すれば、風車はまた百八十度方向を転回する可能性は少なくない。今年に先送りされた「NTT組織再編問題」や、前述の「アクセス分離論」を牽制するための政治カードとして、NTTは虎視眈々とこのカードを切るタイミングを探っているといわれる。夏の参院選を前に、この「埋蔵金」問題が大きくクローズアップされるとの見方は強い。
 前政権時代、自民党が通信業界を牛耳るその手法は、密室的でアコギながらも、一面で深遠な面もあった。それに対し、風がふけば正反対に向きをかえる原口総務相はあまりにも軽い。昨日の勝者は明日の敗者。通信業界は先の見えぬ混沌の時代に入ろうとしているようだ。


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